「お嬢さん、彼を君の心の中で英雄にしちゃいけない」
わたしを愛したスパイ
エロティシズムを前面に出したシリーズ異色作で、しかも女性の一人称・・・といわれいてる。
ただフレミングの女性描写はエロティックだし、フレミングの文体で三人称から一人称が混在することはよくあり、女性の視点で語られることも少なくなく、かなり感情移入してしまうわけで、そう考えると、この私を愛したスパイも不思議ではない。
本編の主人公は”わたし”ヴィヴィエンヌ・ミシェル。通称ヴィヴ。23歳のフランス系カナダ人。
15歳まで修道院で厳格な教育を受けた彼女は花嫁修業のためにロンドンへ。
事実はカナダ人のナショナリズムが嫌でなんだけど、渡った先ではマイノリティの偏見と迫害に逢うわけ。
で、そこで知合った2人の男と次々に恋に落ちるけど、弄ばれ捨てられるんですね。
結婚の約束をした初恋の男は体目当てだった。
不倫の相手だった男は、これまた再婚を誓ったのに、子供ができたら、さようなら。
そこで、深く傷付いた彼女は心機一転アメリカに向かい、
傷心を払うべく北米を独り旅する。
道中、立ち寄ったモーテルの主人夫婦に頼まれ留守を預かることになったヴィヴ。
しかし、そのモーテルの所有者は保険金詐欺を企んでおり、独り留守番の嵐の夜、ヴィヴは所有者の差し向けた2人の男のために窮地に…。
そこへ宿を借りに来た通りすがりのジェイムズ・ボンド(笑)
この通りすがりのジェイムズ・ボンド、現在ではブロフェルド捜索の途中だというのが定説となっているが、真っ赤なウソ。フレミングは一言も語ってません。
これはジョン・ピアーソン創作が史実となってしまったわけで、
歴史の真実は、亡命ロシア人暗殺阻止の報告にワシントンへ向かう途中が正解。
ボンドは主人公ヴィヴの胸に刻まれた通りすがりの人物として描かれていて、ラストで警察部長がヴィヴを諭すようにいうわけ。ヴィヴはボンドに恋心を抱き始めているから。
「彼も本質はギャングと変わらない人殺しなんだ」
・・・・すむ世界が違うんだよと。
確かにヴィヴのピンチを救った、ボンドの方法は、シンプルなくらいに二人の男を殺しちまえだったわけ。
ノウバディ・ダズ・イット・ベターでしょ。
他の主人公ではこうはいかないもの。
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