「そう、精いっぱい生きておられるご婦人とでも、いいましようか・・・」

女王陛下のOO7

ぺドラム作戦
 サンダーボール作戦の事故処理が終了しブロフェルドを追跡し、逮捕するペドラム作戦が発令されて1年が経過した。これはボンドにとって、有意義な任務も与えられず振り回された一年だった。ほとほと嫌気がさしたボンドは辞職を決意していた。
・・・その矢先、ボンドの車の脇を白いランチアがすり抜けていった。ボンドが撃ち合いのほかに興奮するものは美女の車に追い越されることだった。それは腕の良い女はいつも美人で面白い人間だからだ。最初の出会いはロワイヤルまでの競争だった。
 彼女を見失い流れ着いたカジノ・ロワイヤルはボンドにとって悲劇と心に残る悼のある場所だった。ボンドは毎年ロワイヤルに訪れ、小さな協会の御影石で出来た十字架・・・ヴェスパー・リンドの墓をたずねている。
 そのカジノ・ロワイヤルに白いランチアの女性が現れた。
 彼女はテレサ・デ・ヴィチェンツオ伯爵夫人と呼ばれていた。しかし彼女は200万フランの空賭けをやってしまう。支払う金額も持たずに賭けをするイカサマは、ヨーロッパ全土のカジノのブラックリストに乗り、社交界から追放され、その汚名は一生つきまとう。縁だったのか、ボンドは知り合いのふりをして200万フランを支払ってやる。
「あたしの名はトレーシー。テレサという名は聖者の名よ。あたしは聖者じゃない。部屋は45号室よ。今夜はあんたも生まれて初めての、最高に値段の高い情事というものができるわ。値段は400万フラン。あたしにそれだけの値打ちがあればいいけどね」
 天使のような車の飛ばし方をした女の翼は、背中ではなく、足に二枚づつついていたのだ。
 ロワイヤル・レゾーで一夜を明かした朝、トレーシーの昨夜の行為は、何らかの事情で無理をして生きているからだとボンドは感じていた。金もないのヒステリックに賭けをしたり、自殺的な車の飛ばし方も、ぎりぎりの限界をいくつもくぐりぬけ最後のところに来てしまったからなのだと。泣きたくても涙すら出ないトレーシーに、ボンドは優しい気持が湧き上がり。守ってやりたい、幸せにしてやりたいという感情が芽生えていた。

クリスマスの木はどうやって育つの?
 翌日二人はトレーシーを監視していた、フランス全土を牛耳る、コルシカ系フランス人マフィア、ユニオン・コルスの男たちに連行される。手荒な真似でボンドたちがユニオン・コルスのカピュ(首領)マルク・アンジェ・ドラコの元に連行されたのには訳があった。トレーシーは深刻な憂鬱状態に沈んでおり、精神的な倦怠期のようなものから、人生の意義を見失っていており、いつ自殺にはしってもおかしくない精神状態で、投函するつもりだった遺書もあった。マルク・アンジェはロワイヤル・レゾーに入った時から部下を娘の監視につけていて、ボンドのトレーシーに対する男気ある態度も知っていたし、彼女の遺書から、トレーシーがボンドに心を開きかけていたことも知っていた。マルク・アンジェはボンドがトレーシーの治療のきっかけになると考える。
「あの娘を救うのに手をかしてくれないだろうか。君があれに希望を持たせてくれるのが、わしのひとつの楽しみなんだ。君があれに生きていく理由を与えてくれるんだ。どうだろう?」
 マルク・アンジェはボンドに100ポンドの持参金でトレーシーと結婚してくれないかと頼みこむ。
 確かにボンドはトレーシーに惹かれていた。しかし、トレーシーに必要なのは心の病気を治す精神科医で、スイスによい施設があると答える。ならば、ボンドがトレーシーに逢いたがっていると彼女に思い込ますことはできないだろうか。ボンドに逢うために一生懸命に療養するという生きがいを与えてくれないかと。
 ボンドは、クリスマスに逢おうとトレーシーと約束する。すでにトレーシーには治療の効果が現れていた。ボンドも心から彼女を守ってあげたいという気持になっていた。

コロナ作戦
マルク・アンジェはブロフェルドの逃亡先はスイスだという情報をボンドにもたらした。そして自分はパルタザール・ド・ブルーヴィル伯爵の正当な嗣子であり、ド・ブルーヴィル伯の称号を得ようと躍起になっていた。自分の出生記録を消し、ド・ブルーヴィル家の肉体的特徴のある顔に整形手術を施し、パリ法務省の認定書を得て称号継承の合法的な権利を得ようと、彼らを納得させるために、イギリス紋章院のお墨付きを欲していた。身分のある新しい人間に生まれ変わりたいのだろう。その名誉を求める俗物性を利用して花冠/コロナ作戦が立案される。ブロフェルドをスイス国外におびき出し拉致しようというものだった。ボンドは紋章院のヒラリー・ブレイ伯爵に化けて、ブロフェルドの下に行き、詳しい家系の調査のためと騙し、彼をドイツに連れ出そうとする。
ブロフェルドはピズ・グロリア峯を買い取り、アレルギー治療の研究所を運営していた。そしてスペクターを再び興して、イギリスに細菌戦を仕掛ける準備を行っていたのだ。アレルギー治療に訪れた10人の女性は全員、イギリスの穀物地帯、畜産地帯の農場経営者達の娘で深層催眠によってアレルギーを起こすものが好きになるという暗示をかけていくというものだった。この10人の女性達が帰国し、死の天使として潜在意識に埋め込まれた命令に従って、細菌をばら撒いていくのだ。

僕たちには時間はいくらでもあるんだから・・・
正体がばれたボンドはピズ・グロリアから脱出する。味方は酒の小瓶、サイズの合わない靴とスキー、防寒にもならないセーター。追うスペクターは完全武装の兵士、人工的に起こした雪崩、ロープウェイで先回りした、メルセデスの機動部隊。満身創痍で孤立無援のはずのボントにたった一人だけ味方がいた。クリスマスのその日、マルク・アンジェから居場所を聞き、あてずっぽうでスイスの保養所からやってきたトレーシーと再会できたのだ。
再会した彼女はまるで別人だった快活で幸福で、健康と内に燃えているほてりのようなものを発散していた。彼女のランチアはスペクターのメルセデスを返り討ちにする。
「あんたは十分に働いたわ。ねむりなさい。チューリッヒまでつれてってあげる。お願い。あたしの言うととおりにしなさい」
ボンドは考えていた、トレーシーのような女性には二度と会えやしないと。そして彼女はボンドが求めているもののすべてを持っていて自分を必要としている。そして自分も彼女を必要していると。ボンドはトレーシーに結婚を申し込む。しかしその前に最後の大仕事が残っていた。
 スイスへは合法的に攻撃は出来ない。ボンドはマルク・アンジェの協力で攻撃部隊を編成、ピズ・グロリアを襲撃し、細菌研究所を破壊する。
「誓います」 年が明けて元旦。ミュウヘンのイギリス領事館で二人は式を挙げる。
しかし、一時間三十分後、トレーシーはブロフェルドからの凶弾により、血まみれの亡骸になっていた。

本日の冤罪
ブラウエンフェルダーさん。シチリアで葡萄園を営むドイツ市民。シチリアの葡萄はすっぱいので、糖分を高めるためにモーゼル種を接木しようとしていたところブロフェルドと間違われえらい目にあう。

本日の処刑者PART2
バーディル・・・ボブスレー・コースに突き落とされる。死人の谷、ヒューバーン直道、悪戦苦闘S字コース、地獄の喜び、骨ゆさぶり、極楽小道を抜けて一路天国へ

本日のお友達
ドラコのお友達の、ボンドのことをよく知っているフランス参謀本部二課の高官・・・まさかマチス?


kl