「いいか、俺はお前を殺さなくてはならんのだ」

OO7は三度死ぬ

はじめに
1961年〜1967年の間、「黄金の銃を持つ男」でも実名で登場願ってる、KGB長官セミチャスト二ーは、ボンドの原作と映画の成功が東西両陣営の冷戦の激化に一訳買い、重大な影響力をもっていることを危惧し、ソヴィエトの新聞「イズヴェースチャ」にその問題に触れた論文を載せ、東側情報部員の英雄をポピュラーなものするよう、ソ連、東側諸国の作家達に訴えた。
その要請に応えてアンドレイ・グリャシキが書き上げたのが、この作品となるのだけれども、実際はザーホフのシリーズで、すでにOO7と「イチェレンスキー事件」という作品では対決をしており、それはその最終決戦というものになっている。この作品の10年前ということは56年のお話・・・・その頃ってボンド、有名だったかア!?

ストーリィ
OO7、ブルガリアに潜入。ブルガリア防諜組織を振り切って地下に潜伏した。
今回のOO7の任務は非公式なものだった。
<光作戦>それはNATO軍総司令部第二課と共同によるものだった。
標的はコンスタンチン・トロフィーモフ博士。
モスクワの核物理学社であり量子エレクトロニクス・シンポジウム出席のためにブルガリア訪問する。
トロフィーモフは特殊なレーザー光線を発明した。
どんな鏡にも屈折せずすべての物質を通過し、すべての電磁波を無力化するという。
N将軍はOO7の迎撃の任務をアヴァクーム・ザーホフにたくした。
OO7はザーホフにとって10年前の事件来の宿敵でもあった。

白いヒーロー
アヴァクーム・ザーホフ
元考古学者。B局(ブルガリア諜報機関)にスカウトされ、10年前のイチェレンスキー事件以降、
口蹄疫病事件、赤外線眼鏡事件などを解決する。
そのイレンチェスキー事件において、ボヤン・イチェレンスキーとOO7は親しい仲であり、彼を死に追いやったザーホフに対してOO7を復讐の機会を待っていた。

ザーホフVSOO7
OO7は博士の宿泊先から海岸線に流れる排水溝をつたわって中に潜入。
博士と秘書のナターリア・ニコラーエヴナ拉致し、入ってきた道をもどりボートで脱出。
沖に停泊している偽装タンカーに回収され、新型レーザーの実験のために出港。
一方、ザーホフは、ナチス・ドイツで殺人光線の研究をしていたポール・シェレンベルグ博士が、新型レーザーの実験に立ち会うという情報を得て彼に成りすましタンカーに乗り込む。
ザーホフはタンカーのコンパスを狂わせ、タンカーは一路、南極大陸へ・・・
しかし!
ザーホフの正体がばれたのもつかの間、タンカーは氷山にはさまれ損壊。
氷原に脱出した一行は、極寒の地でのサバイバル。
そして、ザーホフ、OO7の最後の戦い。
OO7は氷原の深いクレパスの底に落ちて消える。


「ザボフ対O7」アンドレイ・グリャシキ著、袋 一平 訳、ハヤカワミステリー・マガジン収録。

“O7”と呼ばれる英国情報局A部所属の諜報部員が直属の上司である部長から、「当情報部は一切感知出来ない極秘任務」と釘を挿された上で、NATO参謀本部による新レーザー光線を発見したソ連科学者の誘拐を命じられる・・・。
どこかで聞いた事があるようなと思われるのも当然「OO7は三度死ぬ」(深見 弾 訳)のタイトルで創元推理文庫から出版されたモノと原書は同じなのです。
 しかしながらややこしい事に、「ザボフ対O7」はA・ソブコウィチ氏がロシア語に翻訳しイズベスチャ誌に連載されたモノを袋 一平 氏がまた日本語翻訳したものであり、出版も1967年となっておりますのでこちらが先かと思われます。(原書の発表は1966年)
実際に3回ほど改訂増補版が出版されたようで、3回目の増補改訂版に「O7に死を」のタイトルでアンドレイ・グリャシキの作品集(4篇を収録1985年出版)に収録されたがこの「OO7は三度死ぬ」だとの事です。2回目の改訂加筆がどのように行われたかは想像すらつきませんね。(笑)
 2冊の日本語版の違いは、「ザボフ対O7」では英国情報部員はあくまで“O7”という名称のみで表され、最後は飛来した飛行機を米軍機と思い込んでいた“O7”にパイロットがロシア語で「基地ではお茶を用意してまっています」というオチ。
ところが「OO7は三度死ぬ」になると“OO7”(名前はなぜかレネ・ルフェーヴル)であり、最後は南極の氷河のクレパスに消えた・・・と。(汗)
 追伸としまして、アンドレイ・グリャシキ氏はこの作品の東側スパイ(ブルガリアの諜報部員)であるアヴァクーム・ザーホフの活躍する作品は既に英国情報局A部所属の諜報部員は対決をしているとの事ですので、その話もぜひとも読んで見たいものですね。


kl