「ああプッシー、私のプッシー、これが私からもらえる最後の餌だよ」

オクトパシー

 死を待つ男。ヘミングウェイがね。これをテーマにするんですよ。自分自身が生涯なれなかった理想の男性像をそこに表現しようとしてるんです。身を汚されようとも、殺されようとも、その恐怖にだけは絶対に屈しないという男。代表作では前半の殺し屋たちとレストランの主人との掛け合いが有名な「殺し屋」にでてくるオール・アンダーソン。自分が不治の病と知り泣くまいと壁をにらみ続けるニックの息子・・・
 
かつて戦時中、情報部で輝かしい活躍をした情報部将校デクスター・スマイス少佐のもとに、突然、死刑宣告にひとしいボンドの訪問をうける。彼は今日までの半生、いつ訪れるかも知れない恐怖に怯えながらもすごしてきた。それは持病の冠状動脈血栓の発作だけでなく。戦時中ナチス・ドイツがオーストリア・カイゼル山脈の峯に隠していた金塊を盗み出し、そのとき山の案内に利用したハンネス・オーベルハウザーを殺して雪に埋もれた谷の底に突き落としていたのだ。いつかはこの事実が発覚し自分の下に使者がくるだろう。その恐怖と対峙しながら歳を重ね、妻も亡くし1人になり、もっか彼の友達は「住民」と呼んでいる珊瑚礁の魚たち、そしてプッシーと名づけた章魚(たこ)。
 ボンドがスマイスの前に現れたのは偶然だった。
 雪がとけて死体が発見されて、彼の遺品から身元が判明し・・・その書類をたまたまボンドがみて、さらにその人物が、少年の時、ボンドかスキーを教わった知人だったからだ。ボンドは身柄の拘束をせずスマイスに猶予を与えて島を去った。さて、自分を逮捕するためにやってくる役人を待つか、自決するか?どちらにしろバハマにいるのはもうこれが最後だろう。彼は今まで考えていた関心事を実行に移すことにした。毒のとげをもつ、カサゴを果たして蛸はどうやって食べるのだろうか?
 不注意でスマイスはカサゴに刺され、プッシーに最後の死の抱擁を与えられた。
 島は溺死と報道した。
 その報告を見たボンドは、自決だったのだろうと思った。

住民達
おとめ魚・・・怖いもの知らずで喧嘩好き。
別嬪のグレゴリー・・・星明りのを移したようなビンそっくりのジュール・フイッシュ。
おうむべら・・・・ちょっと太りすぎの女形。
ちょうちょう魚。
さそり魚こと、かさご。
プッシーちゃんこと章魚。


kl