「君の目にかなった人物なら、間違いはなかろう」

OO7号マカオの冒険

はじめに
早川書房エラリー・クイーン・ミステリー・マガジン(現ミステリー・マガジン)のボンド特集で小鷹信光氏が匿名で寄稿した小説。
小鷹信光と聞いてピンこなくても、工藤俊作の生みの親。松田優作が主演して今なお根強い人気の「探偵物語」の原作者ときたらどうでしょうか。
ハメットとかの翻訳を手がけ、日本にハードボイルド小説を紹介した御仁ですね。
ですから、ハードボイルド私立探偵風のボンドが堪能できます。
物語の発端からして、休暇があるのなら神秘の半島、マカオを私の代わりに取材してくれと、“あのいまいましいキザな英国紳士”のスリラー作家(誰だか解りますね)にごねられて、客船タクシン丸でポルトガル領マカオ島に流される甲板上のボンドから始まります。
作品自体も、「OO7号世界を行く」のマカオ篇をベースに、過去の作品の関連事項をたくみに絡み合わせて展開されていきます。
例えば、
香港からマカオの船でボンドが回想するのは、イギリス貨物船を専門に狙う中国の武装船の底に吸着式爆弾を仕掛ける作戦をH支局に提案したエピソード。
香港とマカオの暗黒街で重要な役割を持つ、金に対する東洋人の執着心については、イングランド銀行のスミザース元中佐の言葉を思い浮かべている。
ヒロインが荷担しているとされる14K団は、若き日のジュリアス・ノオが大立ち回りした組織。

ピンクのヒロイン
黒い髪、黒い斜視が買った魅惑的な眼。ちんまりした可愛い鼻もさることながら、タクシン丸の急なタラップ活発的な足取りで降りてくる足元に、ボンドは新しい冒険を予感を感じる。
彼女の名前はスー・ウォン。マカオで二番目の金持ち、セントラル・ホテルというマカオ位置の高級ホテル兼カジノのオーナーであるミスター・フー・タック・ヤムの秘書。
同じ船に乗り合わせていたボンドは、スーにマカオ一の遊び場を案内してもらおうとする。
ボンドに興味をもったスーは、同時にボンドの品定めをする。
セントラル・ホテル案内し、歓楽に部屋を貸している1階から6階のうち何処に行きたいのか試す。カジノは階が上に行くに連れて高級になり、迷わず6階を指名したら、ミスター・フーの退屈しのぎのためにあわせてやろうと。
この男は、ミスター・フーの事業に利用できる「危険な匂い」がしたからだ。

黒い悪玉
ミスター・フー・タック・ヤックはボンドの用心棒にしようと考えていた。彼は14K団に、所有する金を狙われていた。
だが、フーを狙ってるのは14K団だけではないらしい。
マカオ1の金持ちドクター・ボロはCIAと関係があり、もう1人の大物ミスター・ホーイは中共と仲がいい。
その6階のオフィスか何者かに襲撃されて爆破され、フーは拉致されてしまう。
犯人の要求は、ボンドを指名し、ホテルトラックを使って指定された場所に来いと言うものだった。
だが、それは擬装誘拐だった。数百万ポンドの金塊を別の場所に移動し、自分は被害者装い、他の対抗組織はお互いに相手がフーの金塊を奪ったんだろうと、お互いに潰し合いを始める。
それをミスター・フーは、高みの見物としゃれ込もうという計画だったのだ。
ボンドは、その実行犯としての人身御供として利用使用していたのだ。
しかし、金でフーの妻となったリタに彼は射殺されてしまう。

金と心中すればいいのよ!
リタは金を積んだとされる中古トラックをボンドに運転させて、港に停泊させているマカオ丸に積み込ませようとする。
金を独り占めするためだ。山分けといってはいたが、要が済んだらリタは自分を殺そうとしていることくらい、ボンドには解っていた。
ボンドはトラックごと積荷を港に沈めた。巻き込まれたリタも金とともに海の底に沈んでいった。
事を終えたホンドは、セントラル・ホテルで待つスーに事の顛末を話した。
「警察に知らせなきゃ。お部屋で待っててね。すてきなプレゼントを持ってお部屋にいくわ。ボンドさん」
スー・ウォンが去り、一人になったボンドは解けない謎に考えを馳せていた。
ジェイムズ・コネリ―という名を使ってイにも係わらず、スーはボンドの本名を知っていたこと。
スーは14K団の儀式や様式を詳しく知っていた、14K団について好意的だったこと。
フーの計画を知ったとき、人選を任されたスーは14K団の国際的な情報網をつかって、マカオに向かうボンドを突き止め利用したのかもしれない。
すべてはもう終わってしまったことだった。しかしボンドは、最後の罠を仕掛けて結果を待っていた。
ふられたダイスの眼は三つ。
1.スーは戻ってこない。海に落とした積荷は本当に金塊で、警察なり、スーが手引きした14K団が引き上げているから。
2.積荷は鉛か何かで、本物の金塊のありかを拷問しようと、スーの一味の殺し屋か、別の対抗組織の者がやってくる。
3.スーがやってくる。金塊が一味の手に渡っているのならボンドはもう用済みだろう。スーが現れ、いかなる手管を用いてもボンドに接近してくるだろう。
おそらくフーの金塊は、積荷ではなくトラックのあちこちの部品に形を代えて隠されているのだろう。
ボンドはそう推理していた。
「わたし、スー・ウォンよ。お約束のプレゼントを持ってきたわ」
かすかな衣擦れの音とともに近づいてくるスー・ウォン・・・


kl