
「百姓や体制の犠牲者から成る世界でなく、英雄から成る世界をな」
アイスブレイカー
はじめに
ジョナサン・ケープ社から出版されたジョン・ガードナーのボンド・シリーズは当初三部作の契約だった。80年代に適応するボンドを創ろうとした「メルトダウン作戦」、オールド・ファン・・・とりわけ映画ファンを対象にした「スペクターの逆襲」につづくフィナーレはガードナー・オリジナルの匂いがする。
サーブ900にしろブラックホーク・マグナムにしろ新しいボンドの設定にしろ、このために周到に用意されたものであり、スペクター以上にボンドの宿敵であった敵が登場する・・・が、
北極圏というという舞台、四カ国の共同作戦。第四帝国という敵。そしてラップ人というマイノリティ。何もかもがいままで存在しなかった新しい試みでもあり、二転三転のどんでん返し、裏切り者の存在など、後のシリーズの雛型をつくったものの、のちにシリーズが継続することとなった第四作目以降の作品は、レベル・ダウンぎみの類似品という枠を出ることはなかった。それだけこの作品の完成度がたかかった。
しかし、それゆえにガードナーでは「スペクターの逆襲」を一押しするファンからは徹底的に嫌われている。そこらへんが、日本でボンド小説を出版するということの限界・・・というか、元凶なんだろう。
ラスト・シーンは三部作を締めるのに粋な演出がなされている。ボンドは眠りに落ち、夢を見る、「在りし日のロワイヤル・レゾー」の・・・フレミングにボンドを返して幕を閉じる。
ストーリィ
口火切りはリビア軍事通商本部で交渉中のリビア・ソ連代表たちの暗殺だった。次はロンドンにおける共産党の会合。テロリスト達の襲撃によって壊滅した。以降1年間暗殺部隊は30件以上事件を起こし、犯行声明としてコミュニュケを発行した。暗殺部隊の使用する武器はソ連本土より巧妙に略奪された武器あった。
彼らはNASS(社会主義行動軍)と名乗った。アドルフ・ヒトラー・コマンド、第一アイヒマン・コマンド、ハインリッヒ・ヒムラーSS師団という名の実動隊をもつNASSは国際ファシズムの大義のために共産主義イデオロギーの殲滅を宣言した。
第三帝国の亡霊の復活に対してソ連は西側に作戦協力の要請を行った。かくして英国、米国、イスラエル、ソ連による共同活動が開始された。
作戦名はアイスブレイカー作戦。
ソ連は、武器はフィンランド国境沿いにあるソ連の武器貯蔵庫ブルー・ヘア基地の将校を買収して略奪したものだという事を突き止め、英国は、その武器を受領するためにフィンランドでNASSのために働いている男がコンラート・フォン・グリョーダ伯爵だと突き止めた。
そしてフィンランド=ソ連国境に渡る武器密輸ルートを絶つ事と、北極圏にある。NASSの本拠地を叩く実動作戦が立案され、ソ連はイギリスにボンドを派遣するよう指名してきた。そして6週間後、作戦参加のためにSASの寒冷地演習を終えてイギリスに向かうボンドは何者かに襲撃される。さらに事態は独自に活動を続けているフィンランド諜報機関もからんでいく・・・
ピンクのヒロイン
リプケ・インバーグ
アイスブレスカー作戦でイスラエルから参加したエージェント。ミロのヴィーナスによく似たスタイルのすこぶるつきの美人。
本名はアンニ・テューデル。戦争戦犯として現在も追跡が行われている旧ナチス親衛隊フィンランド人将校アルーネ・テューデル准将の娘。母はフィンランドのラップ人だが、娘とともにテューデルのもとから逃げる。16歳の時にユダヤ人大量虐殺に関与していた父の素性をしり、贖罪と、父への復讐が、イスラエルに移住させる事を決意させる。その確固たる「演技」に意志にモサドの長官ザミールは直々に認めてしまった。
パウラ・ヴァッケル
三年前からボンドが付き合っている(北欧に滞在中の)女友達。広告代理店に勤めているが、SUPOフィンランド諜報公安組織のエージェンド。出会ったときは、まだお互い相手の正体は知らなかった。
NASSが活動をはじめたとき、リプケ・インバーグとハイスク・ルール時代の幼馴染だったことから、NASSの諜報任務につく。
氷の王
NASSの首謀者アルーネ・テューデル准将70に近いはずだが、年齢を超越した容貌を備えている。フィンランドとナチス・ドイツが同盟を結んだときSS部隊の参謀として赴任した。アドルフ・ヒトラーに満腔の敬意を抱いており、戦犯として亡命した南米の地で朽ちることを良しとせず、第3帝国の復活に決起した。フィンランドの地の利に長けた准将はソ連国境側にある戦時中使われていた要塞の跡を総司令本部「アイス・パレス」としフォン・グリョーダ伯爵となのり、ブルー・ヘア基地の将校を買収し武器を買い付けた。
さらに、武器横流しを調査にきたスメルシュ(KGB第X課)ニコライ・モソロフと更なる武器の購入とジェイムズ・ボンドの首と引き換えという取引を取り付ける。
ボンドを捕らえたが、NASSの操作を行っていたSUPOの妨害もあり失敗する。さらにソ連空軍の空爆により総司令部は壊滅する。・・・が、
准将と取引した、モソロフの思惑は違っていた。「アイス・パレス」は端から空爆で殲滅する予定で、自分の出世の為にNASSを利用できないかと考えた末、KGBのブラック・リスト筆頭のボンドの首と武器の提供という取引を思いついたのだ。かくしてアイスブレイカー作戦は武器横領のスキャンダルをもみ消すことと、ボンドを生け捕るための作戦として開始された。
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