「この連中は法律で縛り首にできないんです。だが、殺すべきです」

読後焼却せよ

はじめに
生殺死与奪の権利・・・シリーズでは撤退していた主題が短編にて復活する。「カジノ・ロワイヤル」にてボンドは善悪の葛藤で悩む、殺人の正当性は何を根拠にしているのかということ。ソ連の工作員は祖国にとって悪だから殺してもいい、しかしロシア人にとって彼らは英雄であって、逆にボンドが悪なのだ。 この世には自分を正当化できる絶対的な正義は存在しない。そのとき導き出された回答は、イデオロギーのためでなく、愛する人の為にというものだった。祖国にとっても自分にとっても尊敬に値するものが殺人を命令するのなら、遂行しようと。その人物がMである。Mが殺人を選択し命令するのなら・・・である。
で、この作品の悪役、ハマーシュタインだが、スペクターに恐喝されて全財産を巻き上げられているんです。おそらく、カナダに移った後にスペクターに毟られたと思われますね。うーん。

ストーリィ
Mは自分にその選択権の義務、いわば自分の一存で見知らぬ人間にたいする生殺死与奪の権利をもたねばならないことにしばしば苦悩し、思考をMに任せてしまって、行動を起こすだけの機械を決め込んでいるボンドに対して腹立たしく思うときもなくもない。
Mは公私の狭間にゆれていた。旧友であるハヴロック夫妻の復讐を成し遂げたかった。命令を出すことは可能だ。しかしそれは国家のためでもなんでもなく、私情。つまりは犯罪行為なのだ。復讐のターゲットは、ドイツ人の フォン・ハマーシュタインでキューバの勢力圏でバチスタ政権の逆スパイの頭目として、ゆすり袖の下で財産を築いていった。しかしカストロの台頭、それの発覚に対するバチスタ政権からの解雇の前に逃亡の準備をしていた。そして土地の登記などに財産をつぎこみ隠蔽を図った。そのターゲットがハヴロック夫妻の住むカリブの邸宅だった。彼らは夫妻を惨殺し、娘に土地の譲渡をせまっていた。彼を捕まええて法廷に立たせようにも、証人喚問など、敵勢力である共産圏からの公式的な援助は期待できない。Mはボンドに全てを話して「おまえならどうする」と逆に生殺死与奪の権利をボンドに突きつけてみた。私情であるそれには命令でなく、共犯関係作りたかったからだ。
それは正義なのか、ただの復讐なのか
ボンドはいった。
「力で制裁を加えるだけです。目には目をです」
Mとボンドの共犯は成立し、ハマーシュタインに関する種類は火に投げ込まれこの世から消滅した。
既にハマーシュタインはハバナ共和国を脱出していた。ボンドが向かうカナダとアメリカの国境沿いには、もう1人彼を追う女がいた。弓を持ち山の中でじっと両親の復讐の機会を待っていたジュディ・ハヴロックだった。
ジュディは両親の殺害、それに続く嫌がらせに対して反撃に撃ってでたのだ。復讐する権利は家族を殺された者にある。それは確かにそうだろう。しかしそれが簡単に達成できるほど、世の中や敵は甘くないのだ。彼女にとって、世の地獄の恐怖と引き換えに仇討ちは終わる。
ボンドはジュディをイギリスに連れて行くことにした。ハヴロック夫妻の娘の安否を気遣っていたMがまっているからだ。


kl