ダブルショット

犯罪組織ジ・ユニオンの復讐が始まった。
世界第三位の高峰カンチェンジュンガで、イギリスが開発した新技術を強奪し、中国に売り渡そうとしたジ・ユニオンの陰謀を阻止したジェイムズ・ボンドだが、希薄な酸素と猛烈な低温という環境の中で負った傷は、意外に深刻なものだった。
ロンドンに帰還したボンドは、二ヶ月間もの間原因不明の頭痛と、癲癇のような発作に悩まされていたのである。体調の異変を危惧したMは、ボンドを現場の任務から外していたが、ボンド自身は、秘書のヘレナ・マークスベリーがザ・ユニオンの手によって惨殺された事件を放置しておくことができなかった。
そんな彼のもとに、奇怪な郵便物が届く。差出人はソーホーのアダルト・ショップ。届けられたポルノ小説には、まるで死んだヘレナを貶めるようなメモが添えられていた。
ヘレナ殺害事件は警察の手に委ねられており、直接の関与を禁じられていたにも関わらず、ボンドは差出人のアダルト・ショップに探りを入れる。
しかしこれは、ジ・ユニオンが巧妙に仕掛けた罠だった。
激しい頭痛に襲われながらも間一髪の危機を切り抜けたボンドは、その夜、担当医の自宅を訪ねるが、またしても発作に見舞われ、意識を失ってしまう。
次に気がつくと、ボンドの目の前には、担当医の惨殺死体が横たわっていた。
殺人の嫌疑をかけられ、警察はもとより情報部からも追われる立場になったボンドは、身の潔白を証明するため、ザ・ユニオンの本拠があるとされるモロッコに渡るのだが、それはさらなる罠でしかなかった。
新しいユニオンのリーダーは、ジブラルタルの返還を望むスペインの好戦的な一派を欺き、ボンドを誘き寄せて殺そうと画策する。
Mの制止も聞かずに、ユニオンの手がかりを求め、タンジールのソークス、ロンドンのソーホー、モロッコのテロリスト・キャンプへと向かう。
かの地ではCIAからは双子の姉妹が、そして暗躍するボンドの偽者・・・
ユニオンの標的はジブラルタルで開催されるサミットだった。
そして、ボンドを狙うのは、美しきスペインの殺し屋だった。
ボンドはスペインの闘牛場で、彼女と雌雄を決す。

黒い悪党
謎の秘密結社《ジ・ユニオン》だ。英国秘密情報部のファイルによれば、そもそもは元米海兵隊員が、オレゴン州で旗揚げした極右民兵組織だったが、次第にテロ活動や武器の密輸に手を染めるようになり、拡大していった。
創始者は1996年にポートランドのレストランで射殺されたが、組織はハリスの側近たち(ハリスを暗殺したのは、後を継いだ側近ではないかという観測もある)によって運営され、現在は国籍不明の人物が組織を統括しているものと考えられている。
この人物は「ル・ジェラン(支配人)」と呼ばれており、3〜4人の幹部がそれぞれの活動の責任者になっている、ということまでは判明している。
《ジ・ユニオン》は、目的のために殺害した相手の首を、耳から耳までざっくりと切り裂くという、残忍な儀式を必ず行っている。冒頭の元バハマ総督然り、DERAのトマス・ウッド博士然り。そしてまた、ボンドの秘書で恋人だったヘレナ・マークスベリーもそりひとりだった。


kl