「聞くことは、従うことです」

コールド

はじめに
1980年の「メルトダウン作戦」から16年続いたガードナーのボンド・シリーズも、いよいよ最終回。
最終回らしい凝りにこった、複雑おおがかりな作品になったます。
「消されたライセンス」のノベライズの時、原作の流れに合わせようとレイターの義足をサメにかじらせたり、PPKの次期生産モデルを持たせたりと、苦労が忍ばれたガードナーですが・・・
小説シリーズと映画シリーズを統合する方針になったため、後の「ゴールデンアイ」につなげなくてはと、ラストはMの交代劇を持ち出してきたり・・・落とし前やら、尻拭いやら。
物語の舞台も、前半が「シーファイア」の4年前、後半が「ゴールデンアイ」の1年前となってます。今までにない展開というか開き直りだったりして。
さらに、最終回なんで、ゲストもゴージャス。スーキー、フレデリッカ、ベアトリーチェと過去のヒロイン大集合です。
しかも、どうせ終わりなんだ、後は野となれで、エレクトラもびっくりの掟破りの悪役も登場します。
元恋人の悪役、瀕死の婚約者、元恋人の同僚と・・・なんかそれだけでも十分、修羅場(笑)
UK版は「COLD」、USA版は「COLD FALL」というタイトルで刊行されたが、変更されたのはタイトルだけでなく、本編においても、かなりの改定、削除がなされているそうです。

COLD

1990年。「紳士らしく死ね」でブロークンクロウと雌雄を決したその年・・・
ブラッド・パリ航空機299便が、墜落した。それは爆破によるものだった。
ボンドは爆破された機体を調査するが、その結果、旧友のスーキー・テンペスタ公爵夫人を失った事を知る。
スーキー・テンペスタ。1988年、かつて「不死身な奴はいない」において、スペクターがボンドの首に賞金をかけ、世界中のテロリストたちと首狩りコンペを行ったときに、ボンドに協力してくれた女性だった。
彼女は殺されたとボンドは考える。それは、以前からボンドの元に、スーキーからCOLDに関する調査を止めるべきだと警告が来ていたからだ。
しかし、彼女の死は擬装だった。
そのころFBIは洞察力に優れた捜査官、トニー・コレッティをある重要な犯罪の捜査に当たらせていた。
それはスーキーの義理の息子、およびテンペスタ一族についての捜査だった。
一族は、英国首相直属の秘密情報部の関心をアメリカにひきつける必要があったため、スーキーの擬装死をつくりあげ、それを餌にしてボンドがスーキーに接触するだろう事を利用したのだ。
スーキーの大陸を横断しての捜査は、ボンドにとって殺戮者の捜査と同じだった。
スーキー・テンペスタはいま、テンペスタ一族の長として、アメリカの新たな指導者、後継者たる「カルビン派の子供」たちと合流し、新たなる使命を帯びて動いていたからだ。

黒い悪玉

COLDという組織の名前は、カルビン派の終末の子供たち(Children Of the Last Day)という言葉の意味をもっていた。
スーキー・テンペスタ一族の財源と、ブルータス・クレイ将軍の軍力によって成り立っている。
その目的は手段を限定としない、アメリカの改革であった。
テンペスタ兄弟は、テロで死んだとされているスーキーを失ったことに気落ちするボンドに対し、言葉巧みに近づき、自分の軍隊を持つ元アメリカ軍の将軍ブルータス・クレイと引き合わせ、ボンドを自分達の側に引き込もうと説得するが、失敗する。
彼らは、情でボンドが落とせないとしると、ボンドを殺すことにするが、トニーの機転で脱出する。
スーキーの擬装死は航空機299便の乗客を計画的に殺したテロであり、スーキーもまたCOLDのメンバーだったことを知る。
そしてアメリカに出向いてきたMに、その事実を報告したボンドはクレイ将軍の追跡を開始する。
しかし、Mはスーキたち、テンペスタ一族に拉致される。旅客機爆破から始まる、秘密情報部たるMがボンドの元に出向くよう仕向けた計画が成功したのだ。
捜査線上で接触した、FBIの捜査官フェリシア・ハード・スキフリットから、ボンドは拉致されたMがクレイ将軍の下で軟禁されている事を知る。
ボンドはクレイ将軍の私設軍隊の軍用ヘリを奪って、Mを救出。
逃避の間、逆転に転じたボンドは攻撃する、クレイ将軍が乗り込んだヘリを撃ち落とすが、協力者だったフェリシアは還らぬ人となってしまう。
高度な政治取引があったのかは、解らない。
MはCOLDという組織についてはアメリカ国内の問題であり、これ以上の深入りは内政干渉になると断言。
テンペスタ一族は生きているものの、首謀者のクレイ将軍が死んだことで、組織は壊滅したもの同じだと。
そして、COLDに関してはイギリスの脅威にはならないと判断して、この事件に幕をおろした。
ボンドもそれに従わざる終えなかった。

ピンクのヒロイン

四年の歳月が過ぎた1994年。「シーファイア」事件の後。
インテリジェンス・サービス条例が公布され、全面的な情報公開で秘密情報部の形態が崩壊しようとしていた時・・・
COLDからは手を引いても、秘密情報部は、航空機299便の英国人乗客の命を奪ったスーキー・テンペスタへの復讐は放棄していなかった。
勇退が近いMの最後の落とし前をつけるべく捜査を継続していたのは、ベアトリーチェ・ダ・リッチだった。
容姿、気性供に情熱的な彼女は、OO7と同じ任務遂行時の自由裁量と、機密性、必要に応じての殺人も許可されている。
彼女は「ミソサザイ作戦準備完了」において、イタリアに独自の工作員チームを編成し、BAST殲滅作戦時、ボンド暗殺を阻止するためのボディーガードを努めた。
そして、サッチャー、ゴルバチョフ、ブッシュ・・・英米ソの首脳を守った過去がある。
ベアトリーチェはテンペスタ一族がジュネーブにいる事をつきとめ、スーキー逮捕のためにボンドを誘った。

COLD FALL

ボンドはその一年の残りを「シーファイア」の事件で過酷な拷問をうけ、瀕死の状態の婚約者、フレデリッカ・フォン・グラッセの看病ですごしていた。
スーキー・テンペスタ逮捕の協力をボンドに求めてきていたのは、ベアトリーチェだけではなかった。
FBIもまたアメリカでの航空機爆破の犯人追及を継続していたのだ。
片時もフレデリッカの元を離れたくないボンドだったが、運命は残酷だった。
ボンドのもとにフレデリッカの死の知らせが届く。
意を決意したボンドはテンペスタ逮捕に同意。ベアトリーチェと供にスイスに。
彼らが湖畔の別荘に潜伏している事をつかむが、スーキーとカウフバーガー(知恵遅れの大男)に捕まってしまう。
そして、死んだはずのクレイ将軍が二人の前に姿を現した。
COLDが何者かをアメリカの壊滅につながる恐喝をする計画を立てているらしい。
そしてクレイ将軍とスーキーは結婚式をあげるという。
スーキーにはブラッドバリー航空の罪のない乗客を殺したという罪の意識があった、この四年間、良心との呵責の末、ある決意をする。
その夜、クレイに殺されるように、彼を裏切ろうとする。
それによりベアトリーチェはCOLDのメンバーに出された攻撃指令のターゲットを知る。
そして、かつてイタリアで自分が組織した、自分のチームの工作員たちに、この別荘を襲撃するよう命令する。
しかし、クレイ将軍に見つかりベアトリーチェは捕まるが、ボンドの反撃により、将軍は湖に溺れ死ぬ。
すべてが終わり、情報部も条例に則った大規模な改革の後、長年の上司だったM、マイルズ・メッサビ―卿は退任した。
国防省管轄の秘密情報部本部もリージェント・パークの雑居ビルから、外務省管轄のMI6のSISインテリジェンス・ビルに。
時代が変ったということなのだ。ボンドは新任のM、バーバラ・モーズリィとの初のミーティングに赴く。


kl