
「史上最大の、ぼろ隠し作戦をやろうというのだ」
ムーンレイカー
はじめに
珍しく、探偵小説のセオリーに則って書かれている一品。古いということで、映画化では大幅に変更になったけど、これ、北朝鮮のノドン、テポドンに絡めりゃまだまだ生きるネタでは? 小説乱発していた頃のノビー落合ならとびついたプロットでしょうね(笑)。とにかく第三帝国というのは強烈なキャラクターだよね。幻想を抱かせてくれます。
ストーリィ
すべては親心から始まった。
ヒューゴ卿がカードでイカサマをやっている。社交界ではどんな人間でも息の根を止められてしまうのが、カードのイカサマである。それに気づいたブレイズ・クラブの会長、ベイジルトンは友人のマイルズ卿に相談する。今このスキャンダルが発覚すると、国家的事業となってしまったムーンレイカー製造が頓挫してしまうからだ。「ちょっと痛い目にあわせて、お灸を据えて欲しい」。マイルズ卿のお供でブレイス・クラブに乗り込んだボンドは大勝負に勝つ。しかしボンドはドラックス卿の英雄という仮面の裏にある、どす黒い影を垣間見た。
黒い悪玉
ヒューゴ・ドラックス卿
イギリスの国民的英雄、彼が今、成そうとしている大事業は、イギリスを数年間は戦争から遠ざけてくれるものだといわれている。
知られている彼の経歴は、リバプールの孤児、戦争で顔半分を吹っ飛ばされて記憶喪失に・・・その醜くなった顔を隠すために赤い髪と髭を伸ばしている。記憶を取り戻して復員。戦後三年間、ドラックスはコロンビュウム鉱石を買い占め、アメリカの製造工場に売りつけることによって市場を独占した。コロンビゥム鉱石は溶解点が高いためジェット・エンジンやミサイル、ロケットの製造に使われる。それによって億万長者になったドラックスはイギリスにもどり、派手な豪遊、寄付に金をばら撒き、民衆の心をつかむ。そのきわめつけが「女王陛下、無謀なお願いでございますが・・・」で始まる手紙。彼は自分が所有しているコロンビゥム鉱石をすべて提供し、1000万ポンド資材、設計建造のための技術員を提供して、ヨーロッパ各国の首都を射程圏内に収めた(北朝鮮のテポドンみたいなモンですね)超大型原子力ロケットを造りたいといういうものだった。ロンドンが攻撃されたらすぐに報復できるようにである。その贈り物には野党も賛成して、軍需省も全面的にバック・アップ、女王陛下より勲爵の商号が与えられた。
今日の任務
ムーンレイカーの基地はドーヴァの断崖にある空軍の基地を借りている。基地にはドラッグスを除くと52人しかいない。50人は全員ドイツ人、ロシアの捕虜にならなかったナチス・ドイツの誘導ミサイル権威者達。残る二人は軍需省から保安官として派遣されたトーロン少佐とドラックスの秘書ガーラ。そのトーロン少佐が技術者の一人に殺され、技術者もまたハイル・ヒトラーと叫び自殺した。その事件について、警視庁特別部が海外秘密情報部に協力を要請した。理由はドイツ人科学者を調査してシロと断定したのは情報部であること、ロシアがムーンレイカーを破壊しようとしているのでないか?
ロシア相手の経験があり、破壊工作に通じているボンドが、トーロンの後任を装い、基地に潜入する。
ムーンレイカー試射まで、あと4日・・・
ピンクのヒロイン
ガーラ・ブラント
ボンドの彼女に対する印象は、青い目と長いまつげはマリー・ローランサンの絵のようだが、唇は絵に比べるとふっくらとしすぎる。OO課の秘書ローリア・ポンソビーのように控えめで有能誠実ですれてない。ありがたいことに、この女はプロだ。
本人はガーラという名前には辟易している。さらに酷い本名はガラテア・ブラント。ガーラの父親が巡洋艦ガラテアに乗ってた時に生まれた子供だからである。イギリス人の父親ってみんなこうなのか!?
ガーラは警視庁のヴァレンス副総監の命令でドラックスの秘書として潜入している。妨害工作からムーンレイカーを守るのもそうだが、ヴァレンスの勘が、ドラックスには裏に何かあると語りかけたからである。
ちなみにガーラにはヴィヴィアンという婚約者(捜査係警部)がいる。ボンドはそのことを知らない。(けけけけ・・・)
ドラックスの秘書として一年、ドラックスのムーンレイカーに対する熱意に尊敬の念を抱き始めている。しかしひとつだけ不満があった。彼女の秘書としての仕事は、ムーンレイカーが正確に飛ぶためにジャイロ・コンパスを調整する飛行データーの計算だが、いつも彼女の数値は無視され、ドラックス自身の数値が取り入れられていた。それは毎回、北海の目標から必ず90度ずれている。その先にあるものは・・・ロンドン。
第三帝国よ永遠なれ!PART1
ヘル・カピタン(大尉殿)。50人のドイツ人技術者達はドラックスをこう呼んだ。彼の本名はフーコ゜・フォン・デル・ドラッヒ。ナチス親衛隊の海外情報部RSHAで破壊活動、ゲリラ戦を展開していた。祖国を陵辱し破壊したイギリスに憎悪と軽蔑を抱き、ロシアに今回の計画を持ちかける。ロシアに核弾頭を製造させ、それを搭載したムーンレイカーをロンドンに打ち込み、その間に迎えに来たロシアの潜水艦で亡命するというものだった。
しかしボンドたちによってコンパスを元に戻された核ミサイルはドラックスの上空で爆発した。
政府の公式見解
核爆発について・・・燃料が半分しか使われてなかったから、予想外の大爆発が起きたんだ。
ロシアの潜水艦・・・・あれはテスト公開中の、イギリス海軍の最新鋭潜水艦だった。
潜水艦のロシア国旗・・・・英国海軍旗と身間違えだ。
・・・・・・偉大なる愛国者、ヒューゴ・ドラックス卿の損失は、国家にとって悲劇であった・・・・・・・合掌。
今日の拷問
ガスバーナーでじりじりと炙るもの・・・
ドラックスは捕まえたボンドたちに
「お前は誰に頼まれて働いてるんだ」
「警視庁の依頼で調査している」
・・・・・・拷問にならんかったんです。でも、ボンドたちが脱出した換気口に蒸気を流して蒸し殺すってのはやってます。ノオ博士よりも早く。
今日の公務員
「私だったらその金は早く使っちまうね、ボンド中佐」ドラックスの捨て台詞に、マジに、世紀の大勝負ので得たあぶく銭の使い道を考える、我等が海軍予備役中佐のボンド君。使い道は以下のとおり・・・
ベントレーのカンバーチブルを買う5000ポンド
ダイヤのネクタイ留めを三個買う750ポンド
あとは服買って、アパートの壁を塗り替えて、アイロンを買って、シャンペンを60本買おう!!
・・・それだけか? それでいいのか、ジェイムズ・・・
今日のイカサマ
戦前、マチスと組んでルーマニア人と対決した時、ボンドはステフィ・エスポジトというアメリカ人から様々なイカサマを学んだ。
1.カードにワックスを塗って、カードの山を分かれやすくする。
2.肩の部分にカードを差込、袖口からカードを出す。
3.ベリー・ストリッパー・・・・欲しいカード以外を1ミリ削る。
4.シャイナー・・・・指輪に鏡を仕込む。ドラックスのイカサマはこれ。銀のシガレット・ケースを使った。
5.蛍光読み・・・・見えないインクで書いた手紙を印を特殊メガネで見る。ボンドとマチスが戦前に使った手。
6.カルバーストン・ハンド・・・・ゲーム前にカード一式をすりかえる。ボンドがドラックスに対して使った手。
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